― 「知識」はどう定着する?3大理論の系譜と授業への活かし方を押さえよう! ―

はじめに

学校教育の目的は「人格の完成」を目指すところにあります。つまり、知識を獲得するだけではなく、能力を伸ばし、豊かな人間性を育てることが求められています。そのため、学習者が知識をどう獲得し、どのように定着させるか――という「教授・学習理論」の研究は、古くから行われてきました。

特に教員採用試験では、「どの理論が」「誰によって」「どのような形で」「授業に応用されるか」がよく出題されます。

本テキストでは、理論の系譜(流れ)を整理し、さらに「授業でどう使えるか」という視点も交えて解説します。


1. 古典的教授理論の系譜

まず、教育の大きな流れとして「教授=教えること」「陶冶=育てること」の両面から見ていきましょう。

古代、例えば ソクラテス の問答法(産婆術)から始まり、近世では コメニウス や ペスタロッチ が「実物教授(直観教授)」を唱え、子どもが感覚や実物から学び始める自然主義的な考え方を確立しました。

それをさらに発展させたのが、ドイツの ヨハン・フリードリヒ・ヘルバルト です。彼は教育の目的を「道徳的品性の陶冶(育成)」に置き、「教授なき教育なし」と述べました。そして、学習の流れを体系化し、5段階(準備・提示・連合・一般化・応用)として整理しました。

さらにこの流れは、 ツィラー や ライン によって「5段階教授法」として日本の明治期の学校教育にも影響を及ぼしました。

ポイント整理

  • ヘルバルト:5段階(準備→提示→連合→一般化→応用)
  • ツィラー・ライン:その後、「5段階教授法」として発展
  • 教える側が知識を体系的・秩序立てて与えるという考え方が基盤

2. 経験主義の登場と新教育運動

20世紀初頭になると、「学びとは経験の再構成である」という観点から、新しい理論が登場します。アメリカの ジョン・デューイ は、学習を「問題解決学習」という枠組みで捉えました。

日常の経験から「問題」を発見し、暗示→知性化→仮説→推理→検証という段階を経ることで知識を習得するというものです。


その弟子である ウィリアム・H・キルパトリック は、これをさらに「プロジェクト・メソッド(目標設定→計画→実行→評価)」として具体化しました。


このような経験主義・進歩主義の考え方は、19世紀末から20世紀初頭にかけての「新教育運動」の土台となり、子ども中心・活動重視の教育実践として、以下のようなプランが具体的に提案されました。

  • ドルトン・プラン(提唱者:パーカースト)
  • ウィネトカ・プラン(提唱者:ウォッシュバーン)
  • イエナ・プラン(提唱者:ペーターゼン)

これらは「子ども一人ひとりに合わせた学び」「共同体生活を重視した学び」という視点を持つ実践教育の代表例です。


3. 現代の学習理論

次に、20世紀中盤以降に提唱された主要な学習理論を整理します。教員採用試験では、「誰が提唱したか」「どのような概念か」を関連付けて覚えることが大切です。

  • プログラム学習: B・F・スキナー が提唱。行動主義(オペラント条件づけ)を学習に応用し、教材を細かく分け、即時フィードバックを与える個別学習形式。
  • 発見学習: ジェローム・ブルーナー が提唱。知識の構造(構成概念)を学習者に理解させ、自ら発見する過程を重視。
  • 完全習得学習(マスタリー・ラーニング): ベンジャミン・ブルーム が提唱。診断的・形成的・総括的評価を活用して、すべての子どもが「完全に習得」することを目指す。
  • 有意味受容学習: デイヴィッド・オーズベル が提唱。新しい知識を、すでにある知識(先行オーガナイザー)と結びつけて意味づけながら受け入れる学習を重視。

4. 実質陶冶と形式陶冶の違い

教育目的・教授法を検討するうえで、押さえておきたい用語があります。

  • 形式陶冶:知識・技能を形式的・体系的に身につけることを意味します。例えば、論理的思考、記憶・抽象的能力など、一般能力の育成を重視する方向。
  • 実質陶冶:具体的・実践的な能力・態度・人格を育てることを意味します。道徳心、社会性、実践力などを育てる方向。

この2つの概念を理解しておくことで、学習理論が「知識を習得させる」「能力を育てる」「人格を育てる」という教育目的のどこに立っているかを見抜くことができます。


教室での応用ポイント

  • 各理論が「知識をどう定着させるか」「子どもをどう育てるか」という視点から出発している点を意識しましょう。
  • 教授段階説(古典理論)では、理解→連合→体系化→適用という流れの設計がポイントです。
  • 経験主義・新教育運動では、「子どもの経験・興味・活動」から学びを設計するという発想が鍵となります。
  • 現代理論では、「既に持っている知識と新しい知識をつなぐ」「一人ひとりが習得できる仕組みを作る」「学習者自身が発見・活動する」という要素が強調されています。
  • 授業設計の際には、「形式的な知識・技能を育てる(形式陶冶)」か「実質的な能力・態度・人格を育てる(実質陶冶)」かという視点を持つことで、目的に応じた授業が組み立てやすくなります。

まとめ

本章の学びを整理すると、次のようになります。

  1. 教授・学習理論は、教育の目的(知識・能力・人格)を達成するための考え方として発展してきました。
  2. 古典的理論では、 ヘルバルト による教授段階説が起点となり、ツィラー・ラインへと発展しました。
  3. 経験主義・新教育運動では、 デューイ・キルパトリックらが「子ども中心」「活動重視」の学びを提案しました。
  4. 現代の学習理論では、「個別化」「発見」「有意味な受容」「完全習得」など、多様な視点から学びが論じられています。
  5. また、「形式陶冶」と「実質陶冶」という教育目的の観点を理解することで、理論が授業のどこに位置づくのかを見極める力が付きます。

この知識を基盤として、次回以降では「具体的な授業実践への応用」や「試験によく出る典型問題」に取り組んでいきます。


教採スクールからのメッセージ
理論名や提唱者名を丸暗記するだけではなく、理論が「なぜ」「どのように」「どんな目的で」登場したか、そして「授業でどう使えるか」を自分の言葉で説明できるレベルを目指しましょう。この章で整理した系譜をしっかり頭に入れて、次回以降の学びとつなげていきましょう。

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